Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

  “雪こんこ、き〜れいねvv”
 


この冬は何だかちょっぴり我儘で、気まぐれだ。
夏の猛暑から引き続いて暖かだった秋の延長か、
暦の上での冬に入っても、吹く風もそうは冷たくならず。
そのまま雪の少ない暖かい冬になるのかなと思わせておきながら、
年の瀬という一番忙しい頃合いに、
いきなり骨身に染みるほどの底冷えが押し寄せたし。
そのまま凍るような極寒が冬の間のずっと続くのかと思えば、
年が明けたら、またまたいきなり、
あれは嘘、冗談だったんだよ〜んと言わんばかりに、
打って変わって からりと晴れての暖かくなり。
な〜んだ、やっぱり暖かい冬なんじゃないかと気持ちを緩めかけたところが、

 『…こいつぁ、油断しねぇ方がいいな。』

空を見上げてたうら若きお師匠様が、
ちょっぴり口元を歪めてのそうと仰有られ。
瀬那や家人へ“厳重に寒さ対策を取っておれ”と言い置かれ、
そのまま睦月が半ばとなった途端に…。



 「ひゃあぁぁ〜〜〜。」
 「うやあぁ〜〜〜vv

京の都は夏は暑くて冬場は寒い。
とはいえ、山城や近江の方からの知らせをすっ飛ばす順番で、
洛中に雪がいきなり降ったなんてのは、久し振りじゃあなかろうか。

 「洛中と言ったって、ここいらは相当に外れのほうだがな。」
 「それでも、こんないきなりなんて初めてですよう。」

このあばら家屋敷の住人たちは皆して用心していたので、
歯の根が合わぬほどという寒さで目を覚ました者はいなかったものの、
後になって漏れ聞いた話では、
路上や洛外の廃屋に寝起きしていた者の中には凍死しかけた者も出たとかで。

『蛭魔が夜回りを厳重にせよと発破をかけといてくれなきゃ、
 大変なことになってたろうね。』

『なんの。
 暖かい日が続いて夜回りがしやすいなんぞと
 心にもない言いようをしておった怠け者連中に、喧嘩を吹っかけてやったまで。』

一両日中にとんでもなく寒くなろう卦
(け)が出ておるから、
そうなっては戸締まりも堅とうなろうし泥棒も出歩くまいと、
寒うなってもお主らなぞ役立たずよと煽ってやって、
洛中警護の検非違使らを相手にちょっとした賭けをしただけよと言って。
酒代だったろう小銭をせいぜいまき上げてやったわと、
いかにも意地悪く からから笑った彼だったけれど。

 『自分が直接立ち回って、善行を施した善人よと思われるのが癪だったんでしょ?』

にっこり微笑った桜の宮様へ、
ちょっぴり乱暴にうっせぇよなんて言い返してた臍曲がり。
その気になれば何でも自分でやっつけてしまえよう彼だけれど、
それでは結句キリがないし、
ちゃんとした部署があるのにますます腑抜けになりかねないから。
こうやって挑発するという格好で人を動かすことも肝心で。
そのためには“憎まれ者”という存在感を崩す訳には行かない…とする、
どこか不器用な術師殿。
実は妖異の総帥と組んでいたという裏事情付きの、
大掛かりないかさまの咒を見せつけることで誑
(たぶらか)された今帝が、
そんな段取り、薄々察していようにそれでも彼を重用し続けているのもまた、
ちょいとひねくれた表現しか出来ぬ、ある意味で不器用な彼の本質を、
しっかと把握しておいでだからじゃあないかと、
こっそり、思ってやまない東宮様だったりするそうで。

 まま、そういった やわらかいけどお堅い話はおいといて。

洛中、都のうちだと言うのは少々はばかられるかもというほど場末にある、
神祗官補佐殿のお屋敷だったりするものだから。
ほんのちょこっと足を延ばせば、すぐにも、
草深い森だの古戦場だったらしい原っぱだのへも到達出来たりし。
この寒い中、そこまで侘しいところへわざわざ出向くほど、
侘びや寂びを堪能したいとするよな顔触れではない ちみっこ二人。
お館様に連れられて、特別な薬草を摘みに来たご近所の枯れ野が、
端から端までの一面、純白の雪に覆われていたものだから、
どひゃあと嬉しそうな歓声を上げてしまってたりし。

 「真っちろ〜〜〜〜vv
 「あ、くうちゃんっ!」

きゃいとはしゃいで短いなぞえ、傾斜をとたとた駆け降りてった小さな坊や。
ご本人の変化
へんげだけでは袷(あわせ)姿が限度なれど、
その見せかけの下、自前の毛皮(冬毛仕様)がそりゃあぬくぬくらしいので。
さほどもこもこと着膨れさせていなかったことからの身軽さ、
とてちてと駆け降りると、
小さな坊やの膝までありそうな深さの雪を、
えいやっと蹴散らしながらの進軍を続けて見せる。

 「くうちゃ〜ん、足元 気をつけなよ〜。」

何せ、足元へ何が埋まっているやらが全く見えない雪化粧。
もともと平坦な原っぱではあったれど、
渡り鳥を目当ての罠だとか、全く仕掛けられていないとまでは断言出来ずで。
危ないかも知れないから待って待ってと、
着膨れした書生の少年がワラ綯いの沓でもたもたと後を追う。

 「まま、その辺は普通の野狐より鼻も利こうから。」

危ないものをうっかり踏みつけはしなかろうがと、確信なさった上のこと。
こちらさんはいっそ着ぐるみのような綿入れを堂々と羽織ってのお出まし、
何とも貴族らしからぬ、実用的ないで立ちのお館様が、
鼻の頭を赤くし、吐息は白くけぶらせて、
小さなお弟子の二人を、あぜ道のような粗末な土手の上から見守っておいで。
雪を降らせた雲はとうに去っての、
空は淡い灰色がかった水色に冴えており。
積雪のあちこちで、陽光がまぶされたようにきらきらと弾けていて、
なかなかにきれいな眺めには違いなく。

 「夏の暑い中でこれを見られりゃあ、言うことなしなんだろうがの。」
 「そんな無茶を言うのはこの場かぎりにしてくれな。」

ホントに夏場に言われても、俺にはどうしようもねぇからと、
すぐ傍らに立っていた黒の侍従殿が眉を下げる。
蛭魔よりも上背があって、
冬の装備で厚手の衣紋をまとっていることを差っ引いても
身体の幅も雄々しさも一回りは優に上という、いかにも頼もしい従者であり。
今もただ傍らにいる訳じゃあなく、
さりげなくながら風よけの役目を果たしておいで。
こちらの目の高さにある肩の雄々しさへ、
ちらり、視線だけを流した陰陽の術師殿。

 「………。」

その目許を少しほど細く眇めると、何か言たげなお顔になった。
こうまで寒い中、
黒髪のこの従者殿がこうしていられるのは、実は奇跡のような話であって。
蜥蜴の邪妖ら一門を統べる総帥でありながら、
人でも震え上がる極寒だというのに冬籠もりの必要がない変わり種。
当人が平気だというだけじゃあなく、

 「…。」
 「…お。」

視線へ気づかぬ鈍感さへ業を煮やしたか、
横合いから伸びて来たのは術師殿の白い手で。
それが引っ掴んだは袷の合わせ。
相手の胸倉を掴むまで、何をそこまで怒っているのかと思いきや、

 「…。」
 「判ったから剥くな。」

寒いから懐ろへ入れろと言いたいらしく。
前合わせをがばーっと左右へ大きく割られてはさすがに寒いか、
その手を掴まえると我儘な盟主殿を懐ろへ掻い込んで差し上げる。
分厚い綿入れをまとった背中を抱いても意味はないので、
肩や背中よりも薄い守りの胸元を、向かい合ったままにて引き寄せてやれば、

 「…やっぱお前、実は哺乳類じゃねぇのか?」
 「あのな。」

だってよ、くうと変わらんくらいに暖ったかいのは何なんだよと。
変温どーぶつじゃあ こうはいかねぇぞと。
そこを重宝しているくせに、やっぱりぶうたれる辺りが、
蛭魔の蛭魔たる所以というところか。

 「………。」

はだけられての小袖一枚越しという堅い胸板から伝わる温みは、
時折吹きつけては彼の髪の後れ毛を舞い上げ、
頬の輪郭を叩いては悪戯してゆく、冷たい木枯らしのちょっかいへも、
微塵も揺るがぬ頑健さと相俟って頼もしく。
だのに…少しほどうつむいてこちらを見下ろす格好になった、
伏し目がちの目許の優しさが…何とも甘くて。

 「…見んな。///////
 「? なんで?」

耳へだけじゃあなく、頬をつけた胸板からも、
やわらかく響いて届く低めの声がまた、蛭魔の総身をくすぐってやまない。
昨夜の遅くの閨の中、うなじを撫でた吐息を思い出す。
背へと回された腕の強さも、懐ろに染みてる精悍な匂いも、
彼を構成している全てが気に入りで…しかも。
それらは全部、蛭魔へとやさしく傾けられていて。

 “ああクソ、惚れてんのは薄々判ってる。”

けどな、こっちだって…その、憎からず想ってるのによ。
お前は何でそうも、照れもなくの真っ直ぐに、
惚れてますってのを相手へ突きつけられんだろうな。

 “桜のバカ宮といい、セナちびといい…。”

実に素直に“好きだよ、大好きvv”と口に出来る、態度に出せる連中が、
何でこうも自分の周囲には多いのだろか。
降伏を認めるみたいだと悪あがきしちまうこっちが、何かいかにも小者みてぇで、
情けなくなるじゃねぇかよ…と。
文句を言いつつ、でも暖かいのからは離れがたくて。

 “…。////////

寒い冬もまんざら悪くはないかと。
金の髪をなぶってく寒風からきっちりと庇われながら…
こっそり口元を緩ませていた、誰かさんだったそうですよ。









  d3.gif おまけ d3.gif



気に入りの懐ろへ頬を擦りつけての凭れておいでのお師匠様を、

 “…ありゃ。/////////

ふわわ〜vv 何て幸せそうな構図かしらvvと。
雪原の中途で肩越しに見返って、
目撃しちゃった光景へついつい頬を染めてしまった書生くん。
とはいえ、見てましたとバレたなら、
どんな照れ隠しの八つ当たりをされるや判ったもんじゃないことも重々承知。

 「くうちゃん、どこ〜〜〜?」

あくまでも、くうちゃんのお守りをしてましたと言い抜けるため、
雪だ雪だとはしゃぐ仔ギツネさんを探したが。

 「………あれ?」

ちょっと目を離した隙、
腰まで埋まっては きゃいきゃいと撥ねていた姿がどこにも見えない。
青い空に照らし出されている原っぱは、
雪に塗り潰されてのただただ純白で。
ありゃりゃと焦れば、少し先の雪溜まりからぼこっと飛び出したのが、
ふさふさの毛並みをふわんと揺らした見慣れたお尻尾。

 「なんだ〜。」

雪の中へまで埋まってもぐって遊んでいるくうちゃんであるらしく。
ホッとしたそのまま、自前の毛皮がよほどの防寒具なんだなぁと感心して…
どれほどか経って。

 《 御主よ。》

不意に憑神様のお声がした。
屋外にいて、しかもこちらから呼ばないうちから声をかけてくださるのは珍しく、
「進さん?」
どうしましたかと訊き返せば、

 《 もしかして、あの童、動けぬのではないか?》
 「あ…。////////

好きで埋まっているくうちゃんじゃあないらしいなら…きゃあどうしましょうと、
打って変わっての真っ青になり、

 「ま、待っててね、くうちゃんっ。」
 《 動けぬようだから心配は要らぬ。》

決して揚げ足取りではないらしい進からの励ましに、
引きつったような苦笑を返しつつ、
救助のため懸命に足を踏み出しての進もうとするセナだったものの。
「しまった〜〜〜。」
ここいらは雪が深いらしくって、
あっと言う間に二進も三進も行かなくなり。

 「進さ〜〜〜ん。」
 《 承知。》

泣き声を上げる御主の代わりにと、
姿を現しての、小さな仔ギツネくんを掘り出して下さり、
ついでに進退窮まったセナも連れて。
こちらの難儀へありゃりゃあと、
お揃いの苦笑を浮かべておいでだった、お師匠様と黒の侍従殿の傍らまで、
雄々しき武神様に運んでいただいた顛末を、
ほかほかの肉まんをおみやげに、
冬籠もりの巣まで訪ねた あぎょんさんへと、
身振り手振りも大仰に語ったくうちゃんだったのは後日のお話。


  ―― お館様は冬の寒さも悪くはないなと仰せでしたが、
      それでも…暖かな春が早く来ると良いですね。






  〜Fine〜  08.01.15.


  *お久し振りの陰陽師ご一堂様です。
   こちら様も健やかに新しい年をお迎えになられたご様子で。
   中でも最もお元気なくうちゃんは、
   3日と明けずに阿含さんを訪ねていたりしてvv
   これじゃあ冬籠もりになんねぇだろがと、
   蛇の大邪妖様、困ったように苦笑なさっていたりすると楽しいです♪

  めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv お気軽にvv

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